遺言知識あれこれ

特別受益

 皆様の中には、「長女には結婚資金の援助をした」「長男には自宅を建てるとき援助をした」 など、相続人の方のうちの特定の方にだけ贈与を行なったという方もいらっしゃるでしょう。
 では、そのような事情がある場合、遺言がないとどのような問題が起こるのでしょうか。
 また、遺言を作成することでどのようなメリットがあるのでしょうか。以下でご説明いたします。

 共同相続人の中で、被相続人から生前に贈与などを受けた相続人がいた場合、 そのような贈与などを考慮せずに残っている遺産を分けた場合には、相続人間に不公平が生じてしまいます。
 そこで、民法では、被相続人から贈与などを受けた相続人の法定相続分から贈与相当額を差し引いて計算することで、 共同相続人間の公平を図ることとしました。

 この制度を「特別受益」といいます。

1 特別受益の計算

 特別受益がある場合の各相続人の取得額の計算方法は、以下の通りです。

【各相続人の相続分の計算方法】
・特別受益を受けた相続人
(相続財産+贈与の金額)×法定相続分−贈与の金額
・特別受益を受けていない相続人
(相続財産+贈与の金額)×法定相続分

◎具体例
 被相続人Aさんの相続人は、妻、長男、長女の3人で、Aさんの相続財産は2000万円です。Aさんは長男に400万円の生前贈与をしていたとします。

その場合、妻、長男、長女のそれぞれの取得額は、以下の通りになります。
妻 …(2000万円+400万円)×2分の1=1200万円
長女…(2000万円+400万円)×4分の1=600万円
長男…(2000万円+400万円)×4分の1-400万円=200万円

 

2 遺産分割で特別受益について特に問題となりやすい場面

 特別受益とされる贈与などがある場合には遺産分割の話合いの場面において、贈与などを受けている相続人とその他の相続人との間で不公平感から争いが非常に生じやすいです。
 特別受益に関して特に問題となりやすいのが、以下の2つの点です。

①  贈与が婚姻や養子縁組のための贈与、または、生計の資本のための贈与にあたると特別受益とされます。
②  特別受益とされた場合でも、被相続人が持戻し免除の意思表示をした場合には特別受益を考慮せずに遺産分割がなされます。
 以下でそれぞれの場面について具体的に見て行きたいと思います。

特に問題となりやすい場面①
 被相続人からの贈与などが「特別受益」にあたるためには、婚姻や養子縁組のため、または、「生計の資本として」贈与がなされたことが必要とされます。
「生計の資本として」なされた贈与かどうかは、被相続人からの贈与の金額や贈与の趣旨などから判断されます。

  例えば、
①相続人が自宅を購入するにあたって購入資金を贈与していた場合や
②相続人が起業する際に多額の資金援助を行った場合
などについては「生計の資本として」贈与を行ったとされる場合が多いですが、
③短期間で費消されるような少額の贈与をしていた場合や
④親としての扶養義務の範囲内といえる贈与の場合(稼働能力のない子に対する生活の援助など)
などについては 「生計の資本として」の贈与に当たらないとされる場合が多いです。
 ただし、「生計の資本として」の贈与に当たるかどうかは判断が難しい場面が多いため、相続人間で争いとなってしまうことが多いです。

 

特に問題となりやすい場面②

・持戻し免除の意思表示とは
 生前に被相続人から贈与などを受けていた相続人がいても、その相続人にも法定相続分通りに財産を受け取ってほしいという意思を被相続人が示していたといえる場合(=持戻し免除の意思表示)には、被相続人の意向通りに法定相続分通りの財産を受け取れるようにしようということです。

・持戻し免除の意思表示の方式
 持戻し免除の意思表示の方式に決まりはなく、被相続人が明確に「持戻しを免除する」ことについて発言したり書面に残しているような場合だけでなく、客観的な事情から被相続人が持戻しを免除する意思を示していたと判断できる場合(=黙示の意思表示)であっても構いません。
 実際には、被相続人が書面等で明確に持戻し免除の意思を表示しているケースは非常に少なく、被相続人の生前の言動や贈与の性質などから「被相続人が黙示的に持戻し免除の意思を表示していたか」について相続人間で争いとなることが多くあります。
 また、黙示の意思の表示があったかの判断は被相続人が亡くなった後に様々な事情をもとに判断するしかないため、実際の被相続人の考えと必ずしも一致しているとは限りません。

 

3 特別受益で問題が生じることを予防するための遺言

 以上のように、特別受益の問題が生じる可能性があるにもかかわらず何の対策もせずに放置しておくと、相続人は実際の相続が開始した後ではもはや被相続人の考えを確認することができませんので、それぞれの相続人が知っているご生前の被相続人の言動をもとに主張をぶつけあうこととなり紛争が深刻化する一因となっています。

 特別受益が相続開始後に深刻な問題とならないようにするためには、遺言を残してご生前の被相続人の意思を明確にしておくことが非常に有効です。

 例えば、
・生前に援助を行った相続人よりも援助を行っていない相続人に対して多くの財産を渡したいとお考えの場合、各相続人に相続させる財産額に差をつける内容の遺言を作成することによって、意向を実現することができます。
・生前に贈与を行った相続人にも法定相続分通りに財産を受け取ってほしいとお考えの場合、法定相続分に従って財産を相続させる内容の遺言を作成することによって、意向を実現することができます。

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